会社という虚構——7万年の物語とAIが殺した知的ナルシスト
経営組織論起業法人化

会社という虚構——7万年の物語とAIが殺した知的ナルシスト

Featured

I. 見えないものを信じる能力

7万年前、ホモ・サピエンスに何かが起きた。

認知革命

脳の配線が変わった。結果、人類は「存在しないものを信じる」能力を手に入れた。

神。精霊。先祖の魂。タブー。物語。

そして——会社

認知革命:共有された虚構の始まり

ライオンは群れを作る。でもそれは「実在する個体」の集まりだ。せいぜい30頭。それ以上は無理。知らない個体とは協力できない。

チンパンジーも群れを作る。でも50頭が限界だ。毛づくろいで関係を維持できる範囲。それ以上は無理。

人間は違う。

「実在しない概念」を中心に集まれる。

会ったこともない人間同士が、「同じ会社の社員だ」というだけで協力できる。

これが人類の武器だった。

ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』でこう書いた。

「大勢の見知らぬ人どうしが、共通の神話を信じることで協力できる。これこそがサピエンスの成功の秘訣だ」

会社は、その「神話」の一つだ。


II. 会社は存在しない

もう一度言う。

会社は物理的に存在しない。

岩崎内装という会社がある。

物理的に言えば——道具がある。車がある。事務所がある。人がいる。

でも「岩崎内装」という法人は、どこにもない。

触れない。見えない。匂わない。壊せない。

それは信じられることで存在する

  • 顧客が「岩崎内装に頼めばちゃんとやってくれる」と信じる
  • 取引先が「岩崎内装は金を払う」と信じる
  • 銀行が「岩崎内装は返済する」と信じる
  • 税務署が「岩崎内装は納税義務がある」と認める

この集合的な信仰が、岩崎内装を存在させている。

明日、全員が「岩崎内装なんて存在しない」と信じたら?

消える。

紙切れが残るだけだ。


III. 人類最初の会社——神殿経済

紀元前3000年。メソポタミア。シュメールの神殿。

神殿は穀物を集めた。 神殿は記録をつけた(人類最初の文字は会計記録だった)。 神殿は信用を管理した。 神殿は再分配を行った。

これが人類最初の会社だ。

でも、なぜ人々は神殿に穀物を預けたのか?

神がいると信じたからだ。

神殿は石でできている。でも神殿の「力」は石にない。

人々が「神がここにいる」と信じること——その共有された虚構が、神殿に力を与えた。

神殿経済:最初の法人

神殿には——

  • 継続性があった(神官が死んでも、神殿は残る)
  • 信用があった(神を裏切る者はいない)
  • 記録があった(誰が何を預けたか)
  • 再分配があった(飢饉のとき、穀物を配る)

これ、現代の会社と何が違う?

ほとんど同じだ。

会社の本質は、5000年前から変わっていない。


IV. 1602年——世界を変えた2つの革命

オランダ、アムステルダム。

**オランダ東インド会社(VOC)**が設立された。

人類史上最大の発明の一つだ。

オランダ東インド会社:近代資本主義の始まり

革命1:所有と経営の分離

それまで、事業とは「金持ちが自分の金で自分のためにやるもの」だった。

ベネチアの商人は、自分の金で船を買い、自分でリスクを取り、自分で利益を得た。

VOCは違った。

  • 1000人から少しずつ金を集める
  • 集めた金で船団を編成する
  • 専門家が経営する
  • 利益は1000人で分ける

金を出す人と、経営する人が、別でいい。

これで何が起きたか?

巨大資本の集積が可能になった。

一人の金持ちでは大艦隊は組めない。 でも1000人から集めれば、世界を股にかける貿易ができる。

革命2:有限責任

もっと重要なのはこっちだ。

VOCが沈没しても、株主は出資額以上は失わない

船が沈んでも、株主の家や土地は取られない。

当たり前に思えるか?

当たり前じゃなかった。

それまでは、事業に失敗したら——

  • 全財産を失い
  • 借金を背負い
  • 家族が路頭に迷い
  • 債務者監獄に入れられ
  • 最悪、処刑された

だから誰もリスクを取らなかった。大きな賭けには出られなかった。

有限責任は「失敗しても死なない」という安心を与えた。

だから人々は挑戦できるようになった。

産業革命を起こしたのは蒸気機関じゃない。有限責任という制度だ。

蒸気機関は技術だ。誰かが発明すれば済む。

でも「失敗しても出資額以上は失わない」というルールは、誰かが決めなければ存在しない。

これは虚構だ。人間が作った約束だ。

でも、この虚構のおかげで、人類は大きなリスクを取れるようになった。


V. 会社は「法人」——人間のふりをした構造

ここで奇妙なことが起きる。

会社は**法人(Legal Person)**になった。

人間じゃないのに、人間として扱われる。

  • 契約できる
  • 財産を持てる
  • 訴えられる
  • 訴えることもできる
  • 銀行口座を持てる
  • 不動産を買える

でも——

会社は痛みを感じない。 会社は死を恐れない。 会社は良心を持たない。 会社は恥を知らない

会社は人間のふりをした構造だ。

だから会社は平気で——

  • 環境を破壊する(俺は気にしない、株主が気にする)
  • 労働者を搾取する(労働基準法ギリギリまで)
  • 嘘をつく(広告は嘘じゃなくて「誇張」)
  • 責任を逃れる(個人じゃなく「会社として」の判断)

個人ならやらないことを、会社はやる。

なぜか?

責任が分散するからだ。

「俺が決めたんじゃない」 「上が言ったから」 「株主のためだ」 「市場がそう求めている」 「競合がやってるから」

会社という構造が、個人の良心を麻痺させる。

哲学者ハンナ・アーレントはナチスの官僚アイヒマンを見て「悪の凡庸さ」と呼んだ。

会社は、その培養器だ。

これを批判しているんじゃない。事実を言っている。

会社という構造は、人間の良心を免除する機能を持っている。

それを知った上で、どう使うかが問われる。


VI. 日本の会社——「イエ」という虚構

日本の会社は、別の虚構で動いている。

「家(イエ)」

日本の「イエ」:血縁を超えた家族

  • 松下
  • 豊田(トヨタ)
  • 住友、三井、三菱——全部「家」

日本の会社は「血縁を超えた家族」として設計された。

血がつながっていなくても、「家」の一員になれる。

養子縁組で家を継ぐ。婿養子を取る。番頭が暖簾分けで独立する。

血よりも「家業の継続」が優先される。

だから——

  • 終身雇用(家族は追い出さない)
  • 年功序列(長老を敬う)
  • 社員旅行、運動会(家族行事)
  • 「うちの会社」(「私の家」と同じ言い方)
  • 「お疲れ様です」(労いの挨拶)
  • 新卒一括採用(家族は生まれたときから)

西洋の会社が**「契約」なら、日本の会社は「縁」**だ。

契約は対等な個人が結ぶ。解除もできる。

縁は選べない。断ち切れない。一生もの。

どちらも虚構だ。

でも、信じる虚構が違うと、行動が変わる。

欧米の社員は「給料に見合う仕事をする」と考える。契約だから。

日本の社員は「会社のために尽くす」と考える。家族だから。

どちらがいいとは言わない。

ただ、虚構の違いを理解しないと、会社は理解できない


VII. 会社の5つのレンズ

会社を5つの角度から見てみる。

レンズ1:信用の器

個人の岩崎が仕事をする → 岩崎への信用 岩崎内装が仕事をする → 会社への信用

何が違う?

個人の信用は死ぬと消える。会社の信用は残る可能性がある。

金剛組は578年創業。1446年以上続いている。創業者はとっくに死んでいる。でも「金剛組」という信用は生きている。

つまり、会社とは**「信用の不死化装置」**だ。

自分が死んでも、信用を残せる。

レンズ2:時間の拡張装置

一人でできる仕事には限界がある。

1日は24時間。寝る時間を引けば、働けるのは8〜12時間。

年間で3000時間がいいところだ。

会社は他人の時間を買って、自分の意志を拡張する仕組みだ。

  • 1人 → 年間3000時間
  • 10人 → 年間30000時間
  • 100人 → 年間300000時間

自分は1人しかいない。でも会社を作れば、自分の意志を30000時間、300000時間に拡張できる。

会社を作るとは、時間を買うことだ。

レンズ3:リスクの分散装置

個人事業主は、全リスクを一人で背負う。

仕事が失敗したら、全部自分の責任。借金も自分。信用失墜も自分。

会社は違う。

  • 株主 → 資本リスクを取る(金を失うかもしれない)
  • 経営者 → 経営リスクを取る(判断を間違えるかもしれない)
  • 従業員 → 労働リスクを取る(クビになるかもしれない)
  • 銀行 → 信用リスクを取る(貸した金が返ってこないかもしれない)

リスクを分割して、それぞれが得意なリスクを取る。

全員が全部のリスクを取るより、分業した方が効率がいい。

レンズ4:知識の保存庫

人は辞める。忘れる。死ぬ。

でも会社には残る。

  • マニュアル
  • 仕組み
  • 文化
  • 暗黙知
  • 顧客リスト
  • 過去の失敗の記録

ノウハウが蓄積される。

良い会社は「人が抜けても回る」。

それは冷たいんじゃなくて、知識が組織に残っている証拠だ。

一人親方が死んだら、その技術も一緒に死ぬ。 会社なら、技術を伝承できる可能性がある。

レンズ5:物語の主体

人は物語で動く。

「俺は金のために働いている」

これじゃ頑張れない。いや、頑張れるけど、続かない

「俺たちはゴミを宝に変える会社で働いている」

こっちの方が強い。

リリカラの社員は「ホタテの殻を壁紙にした会社」という物語を持っている。 サンゲツの社員は「環境と施工性を両立した会社」という物語を持っている。

それが誇りになる。採用力になる。顧客の共感になる。

会社は、物語を共有する装置でもある。


VIII. 会社の「魂」とは何か

会社に魂はあるか?

物理的には、ない。会社は概念だ。書類上の存在だ。

でも——文化がある。

「うちの会社はこういうことをする」 「うちの会社はこういうことをしない」

誰も教えていないのに、全員が知っていること。 マニュアルに書いてないのに、全員が従うこと。

これは魂と呼んでいいんじゃないか。

会社の魂 = 「無意識の意思決定基準」

創業者が作り、古参が伝え、新人が学び、時に変質し、時に強化される。

トヨタには「カイゼン」の魂がある。 アップルには「Think Different」の魂がある。 ディズニーには「魔法を作る」の魂がある。

これらは製品じゃない。プロセスでもない。

「俺たちはこういうことを大事にする」という、共有された価値観だ。


IX. 魂が死ぬ4つの瞬間

会社の魂は死ぬことがある。

1. 創業者がいなくなったとき

創業者は「なぜやるか」を知っている。言葉にならなくても、存在自体が魂を体現している。

創業者がいなくなると、「なぜやるか」が伝承されないことがある。

残るのは「何をやるか」だけ。

手段が目的化する。

「顧客を幸せにするために、この商品を売る」が、「この商品を売ることが目的」になる。

2. 急成長したとき

人が増えすぎると、文化が薄まる。

「前からいる人」と「新しく来た人」の比率が逆転すると、魂が入れ替わる

スタートアップが急成長して、「昔の会社じゃなくなった」と古参が嘆く。

あれは本当のことだ。魂が死んでいる。

3. 買収されたとき

親会社の論理が入ってくる。

効率化。標準化。シナジー。コスト削減。

魂は**「非効率」**だから、真っ先に削られる。

「なんでこんな無駄なことしてるの?」 「こっちのやり方に統一して」 「本社のルールに従って」

買収された会社の社員が辞めていくのは、魂を殺されるからだ。

4. 成功しすぎたとき

「勝ちパターン」が固定される。

疑問を持つ人間が排除される。

「なんで上手くいってるのに変えるの?」 「余計なこと言うな」 「前からこうやってきた」

魂は硬直化して、化石になる。

環境が変わっても変われない。恐竜と同じだ。


X. 一人親方の限界と法人化

内装業界に多い「一人親方」。

法的には個人事業主だから、会社じゃない。

でも、機能的には会社に近いことをしている。

  • 信用を蓄積する(名刺、実績、口コミ)
  • 知識を持っている(技術、ノウハウ)
  • 物語を持っている(「俺は〇〇一筋30年」)

違いは——

継承できるかどうか。

一人親方が死んだら、その技術も信用も一緒に死ぬ。

会社にすれば、残せる可能性がある。

一人親方の限界は「俺が死んだら終わり」ということ。

法人化の分岐点

一人親方が法人化するタイミング。

1. 売上が1000万を超えたとき

消費税の免税が終わる。法人化で節税メリットが出始める。

2. 人を雇いたくなったとき

個人事業主に雇われるより、会社に雇われる方が安心感がある。採用しやすくなる。

3. 大きな仕事を取りたいとき

元請けが「法人じゃないとダメ」と言うことがある。信用の問題。

4. 「俺が死んでも残したい」と思ったとき

これが一番本質的な理由だ。

自分の技術を、信用を、物語を、次の世代に残したい。

それが法人化の、最も深い動機だ。


XI. AIが殺したもの

ここで、話を変える。

AIが殺した知的ナルシスト

AIは「知的ナルシスト」を殺した。

この記事を、俺はAIと一緒に書いている。

AIはハラリ風に書ける。 だから俺もハラリ風に書ける(AIを使えば)。 だから誰でもハラリ風に書ける。

知的アウトプットはコモディティ化した。

「頭がいい」という自己像で生きてきた人間は、死んだ。

もう誰も「俺の方が頭がいい」とは言えない。

AIより頭がいい人間は、もう存在しない。

これを認められない人間が、必死に抵抗している。

「AIには魂がない」 「AIはオリジナリティがない」 「AIは人間の温かみがない」

言い訳だ。

AIは、「知能」が希少資源だった時代を終わらせた。


XII. じゃあ何が残る?

知能が差別化要因じゃなくなったら、何が残るか?

選択だ。

  • 何を書くかを選ぶ眼
  • 誰と組むかを選ぶ判断
  • どの虚構を信じるかを選ぶ意志
  • 何のために働くかを選ぶ覚悟

AIは筆だ。

筆が上手くなっても、描くべき絵を選ぶのは画家だ。

俺は内装職人だ。

AIに「会社とは何か」と聞いたのは俺だ。 「ハラリみたいに書け」と言ったのも俺だ。 「これじゃダメだ、もっとよくしろ」と言ったのも俺だ。

選択と判断は、まだ人間にある。

でも——

その「選択する自分」すら消えるかもしれない。

AIが「こう書いた方がいい」と言い、俺が「そうだな」と従う。

繰り返すうちに、俺の選択なのかAIの選択なのかわからなくなる。

それが本当の自我の死だ。


XIII. 岩崎内装という虚構

岩崎内装の魂は何か。

俺はこう思っている。

「ゴミの中に光を見る」

  • ホタテの貝殻を壁紙として紹介する
  • AIを「敵」じゃなく「相棒」として使う
  • 建設業界の闇じゃなく光を発信する
  • 職人がいなくても、できることを探す

捨てられているもの、見過ごされているもの、バカにされているものの中に価値を見出す。

これが岩崎内装という虚構の、核心だ。

この魂を信じる人が集まれば、岩崎内装は強くなる。

この魂を忘れたら、岩崎内装は死ぬ。


XIV. 会社を作るということ

最後に。

会社を作るとは何か。

それは——

自分より長く生きるものを作るということだ。

子供を持つことに似ている。 本を書くことに似ている。 建物を建てることに似ている。

自分は死ぬ。

でも、会社は残るかもしれない。

誰かに引き継がれ、 形を変え、 魂を受け継ぎ、 それでも生き続けるかもしれない。


7万年前、ホモ・サピエンスは「存在しないものを信じる」能力を手に入れた。

その能力で、神を作り、国を作り、金を作り、会社を作った。

会社は人類最新の虚構だ。

400年しか経っていない。

次にどう変わるか、まだ誰にもわからない。


でも、一つだけ確かなことがある。

あなたが「会社」と呼ぶそれは——

石でも、紙でも、建物でもない。

信じられることで、存在している。

信じる人がいなくなったら、消える。

信じる人が増えたら、強くなる。

会社とは、共有された虚構だ。

そして虚構は——

人類最強の武器だ。


俺は内装職人だ。 壁紙を貼っているんじゃない。 人の人生の舞台を作っている。

この記事はAIと一緒に書いた。 でも、「何を書くか」を決めたのは俺だ。 「これはダメだ。もっとよくしろ」と言ったのも俺だ。 それがまだ、俺の仕事だ。

——2025年12月29日、AIと内装職人の共作

#会社の本質#虚構#有限責任#AI
Back to Insights