メーカーは何を売っているか
サンゲツ。「やすらぎと希望」。
リリカラ。「心の彩り」。
東リ。「信頼」。
美しい言葉だ。
だが、彼らが出荷しているのはビニールと紙だ。
ロールに巻かれたビニールクロスに「希望」は入っていない。 床材のパッケージに「心の彩り」は封入されていない。
やすらぎも、信頼も、物理的には存在しない。
これは批判ではない
誤解するな。
メーカーは「虚構」を売っている。そしてそれは正しい。
7万年前、ホモ・サピエンスは「存在しないものを信じる」能力を手に入れた。 会社は虚構だ。お金も虚構だ。ブランドも虚構だ。
サンゲツという名前を聞いて、人々は「信頼」を感じる。 それが虚構の力だ。
問題は、誰がその虚構を現実に変えるかだ。
三社の「魂」
サンゲツ:「選ばなくていい」
壁紙も床材もカーテンも全部揃う。色が合う。雰囲気が統一される。
「考えなくていい安心感」。
だが、その壁紙を施主の部屋に貼り、施主が「ありがとう」と言う瞬間を作るのは——サンゲツのカタログではない。
リリカラ:「正しいことをしている」
ホタテの貝殻を壁紙に変える。廃棄物を資源に。環境に良いことをしながら空間は美しくなる。
「罪悪感のない美しさ」。
だが、その「正しさ」が空間に宿るのは、職人がその素材を理解し、丁寧に貼ったときだけだ。
東リ:「間違いない」
100年の技術蓄積。床材の確かな品質。バスナシリーズという独自製品。
「失敗しない安心」。
だが、東リの技術力は、工場で製品を作るところまでしか及ばない。現場では職人の技術が物を言う。
「翻訳者」という仕事
メーカーの虚構は、施工店によって現実になる。
これが、誰も言わない真実だ。
俺たちは何をしているか。
虚構(メーカーの物語)→ [翻訳] → 現実(現場の空間)
- メーカーの理念を肉体化し、触れる形にする
- 営業との対話で、素材の本質を理解する
- 使い分けの眼で、施主に最適な選択をする
- フィードバックで「共創」する
- 「ゴミの中に光を見る」魂で、施主の人生の舞台を作る
俺たちは、メーカーの販売代理店ではない。翻訳者だ。
盲従してはいけない
メーカーには、メーカーの論理がある。
在庫を減らしたい。新商品を売りたい。施工クレームを最小化したい。
これは悪ではない。企業として当然だ。
だが、メーカーの論理と施主の幸せは、必ずしも一致しない。
新商品が出たからといって、それが施主のリビングに最適とは限らない。
施工店は、メーカーの論理を理解しつつ、施主のために選ぶ眼を持つ。
メーカーに依存するな。メーカーを活用せよ。
岩崎内装の立ち位置
俺は特定のメーカーに肩入れしていない。
サンゲツの営業と仲が悪いわけじゃない。リリカラを嫌っているわけでもない。
だが、どのメーカーにも「全乗り」はしない。
岩崎内装の魂は「ゴミの中に光を見る」。
メーカーの推し商品ではなく、見過ごされている素材に価値を見出す。 廃番になりそうな壁紙でも、ある空間には完璧かもしれない。 人気のない色でも、ある施主の人生には必要かもしれない。
俺たちは、メーカーのマーケティング戦略の実行者ではない。 施主の人生の舞台を作る者だ。
結論
サンゲツは「やすらぎと希望」を売っている。
リリカラは「心を彩る」を売っている。
東リは「信頼」を売っている。
全部、虚構だ。
だが虚構を現実に変えるのが、俺たちの仕事だ。
現場で、壁に貼る。床に敷く。天井に張る。
そのとき、「やすらぎ」が生まれる。 「彩り」が現れる。 「信頼」が形になる。
メーカーの「虚構」を見抜き、現場で「現実」に変える。
それが、翻訳者としての流儀。
——岩崎内装