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EP 02SOUTH AFRICA下書き

国境は、山でも川でもなく「想像上の線」だった

天気の雑談のはずが、25分後には、81歳の先生から国境の引き方と、移民追放の締め切りの話を聞いていた。

2026-07-01本編 約13分
情報源: 西ケープ在住の81歳の南アフリカ人講師。週7で働き、自分で屋根の補修までする。妻は英国生まれで在留資格を持つ。

屋根の上の81歳

その日の先生は、疲れていた。前の日、屋根の上で一日中、補修をしていたという。81歳が、だ。

この歳で屋根の上の作業はよくないんだけどね。バランス感覚が心配で。昔は命綱一本で平気だったんだけど、今はさすがに、ね。

専門家に頼めばいい、と俺は言った。先生の返事が、この国の全部を先に言っていた。

専門家は金がかかる。自分でできると思うことは、自分でやる。

この一言を、25分後にもう一度思い出すことになる。

「重い話は今日はしんどい」

俺はその日、英検の準備をする気力がなかった。2分で一つのトピックに理由を三つ、あれは脳が焼き切れる。だから先生の国の話を聞かせてくれ、と振った。すると先生は、昨日の話を始めた。

昨日はデモで、みんな気が気じゃなかった。不法移民に抗議する行進が、国じゅうの街であってね。

外国人に、国を出ていく期限が切られている。アフリカの国々が自国民を呼び戻し始めている、と先生は言った。

「移民を追い出すと、店が消える」

ここで先生が、一番おもしろいことを言った。

移民を追い出した瞬間に、後悔するんだ。なぜなら、小さな店を上手く回してたのは、たいてい彼らだったから。

外国人が成功する。だから地元民が妬む。だから追い出す。追い出すと、買う店がなくなる。あとで調べたら、これは体感じゃなく事実だった。OECDは、移民が南アのGDPの約9%を生んでいると推計している。低賃金で、文句を言わず、勤勉に働く。問題は移民じゃなくて、彼らを安く使う側と、失業率40%超という国の底なんだ。

先生は「300人が死んだ」と言った。これは少しズレていた。その数字は昨日のことじゃなく、2021年の大暴動の記憶だ。あのとき本当に350人以上が死んだ。今回の死者は4人前後。25分の会話の中で、二つの年が一つに溶けていた。当事者の記憶は、統計みたいにきれいには並ばない。

「合法な人間が、違法なことをやっていた」

先生は、奇妙な光景を教えてくれた。合法な黒人の南アフリカ人が、家々を戸別に回って、移民を探していた、と。

家に入って書類を見せろと迫るのは、違法なんだ。警察しかできない。だから、彼らはたくさん逮捕された。

合法な市民が、違法な取り締まりをする。これを聞いて俺は、口には出さなかったけど、アパルトヘイト時代に黒人が持たされた通行証を思い出した。papers。書類。この国では、紙が人の生き死にを決める。

国境は、想像上の線

話は、なぜこんなに民族がぶつかるのか、に流れた。俺は素朴に聞いた。国境って、人が引いた線でしょう。だったら、何を基準に引いたんですか。川とか、山とか。先生の答えは、静かだけど重かった。

たいていは、ある点から別の点へ引いた、想像上の線だよ。

山でも川でもない。定規で引いた直線。1884年のベルリン会議で、ヨーロッパの列強がアフリカの地図を分けたとき、そこにアフリカ人は一人もいなかった。民族も、王国も、言語も無視して、線が引かれた。だから一つの民族が二つに割れ、敵同士が一つの箱に押し込まれた。

ルワンダの虐殺も、元は一つだった民族が、国境で分けられたから起きたようなものだ。

先生はそう言った。方向は合っている。ただ正確には、フツとツチは同じ言葉を話し、同じ土地に住んでいた。分けたのは国境というより、植民地が後から貼りつけた「民族」という固い壁だった。全員に、民族を書いた身分証を持たせて。ここでも、papers だ。

先住民は、誰だったのか

先生は、この地に最初に住んでいたのはサン、ブッシュメンだと言った。白人が1600年代に来たとき、そこにいた人々。半分は正しい。正確には、狩猟採集民のサンと、牛を飼う牧畜民のコイコイ。合わせてコイサン。クリック音を使う、世界でも珍しい言葉を話す人たち。

今の南アの黒人の多く——ズールーも、コーサも——は、実は後から南下してきたバントゥー系の子孫だ。ズールーはシャカという王のもとで軍事的に突出した。先生の言う通りだ。ただ「シャカが百万人殺した」という古い話は、今の歴史家は割り引いて聞く。

結論: 屋根の上の一言が、全部だった

専門家は金がかかる。自分でできることは、自分でやる。

先生が屋根の上で言ったこの一言は、そのまま国の話だった。水道は3ヶ月出ない。道路の穴は1年直らない。ヨハネスブルグでは水道管が1日に144本も破裂している。役所は当てにならない。だから81歳が、自分で屋根に登る。

英語を習いに行って、俺はまた、一つの国の骨格を持って帰ってきた。ニュースは「南アでデモ」としか言わない。でも、屋根の上の81歳の声で聞くと、それは締め切りと、書類と、想像上の線の話だった。

たぶん、合ってる。

裏取り: 体感 vs 事実

先生が言ったことを、統計と一次資料で確かめた。ズレている所が一番面白い。

先生「昨日のデモで、2021年みたいに300人が死んだ」
混線。2026年の死者は「4人前後」。「300人超」は2021年7月のズマ暴動の数字
2026年6〜7月の反移民騒乱の死者は6月末で4人前後(西ケープ・モーセルベイで警察確認3人、小屋約55軒が放火)。一方2021年7月の暴動は約350人以上が死亡(ハウテン79・KZN258)、損失R500億。先生の中で2021年と2026年が混ざっている。
先生「11月4日に大きな州選挙(provincial elections)がある」
日付は正しいが種別が違う。正しくは地方自治体選挙(local)
ラマポーザ大統領が2026年4月30日に11月4日(水)を投票日と正式発表。ただし選ぶのは州議会でなく市町村議会(8メトロ+205自治体+44広域)。州選挙は総選挙と同日(直近2024・次2029)で、これとは別サイクル。
先生「9州のうち8州がANC、1州(西ケープ)だけDA」
2024年5月に崩壊。西ケープDAは維持もKZNはズマのMK党が奪取
2024年総選挙でANCは得票40.18%に転落し、1994年以来初の過半数割れ。西ケープはDAが約53%で維持したが、KZNではMK党が45.9%で第一党、ハウテンもANCが単独過半数を失った。「8対1」は2009〜2024年の古い感覚。
先生「移民を追い出した瞬間、後悔する。店を上手く回してたのは彼らだったから」
概ね事実。OECDは移民が南アGDPの約9%を生むと推計
非正規移民は労働法の保護が薄く低賃金で雇えるため、農業・警備・家事で好まれる。本質は移民でなく、脆弱な立場を安く使う雇用主と失業率40%超の構造的絶望。移民はスケープゴート、と論者は口を揃える。

出典