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EP 01SOUTH AFRICA下書き

水が3ヶ月出ない国の先生に、英語を習っている

蚊の雑学のはずが、25分後には一つの国がどう内側から食われたかを知っていた。

2026-06-14本編 約12分
情報源: 青空市場(220店)を仕切る南アフリカ人講師。週7勤務、妻は元ソーシャルワーカー。

気分の落ちた日曜の、なんとなくの予約

日曜の夜だった。理由もなく気分が落ちていて、なんとなく予約しただけの英会話。相手は南アフリカの先生。

その日のテーマは、蚊の記事を読むこと。地味だ。なのに25分後、俺はカバの走力と、一つの国がどうやって内側から食われたかを知っていた。

アフリカで一番人を殺してる動物、知ってます? ライオンじゃない。蚊だ。病気を運ぶから。一番小さいやつが、一番殺してる。

この先生、220店の青空市場を仕切っていて、週7で働いている。奥さんは元ソーシャルワーカーで、ストリートチルドレンを見てきた人。つまりこの国の「底」を、上からの統計じゃなく、横で見てきた人間だ。

「水が3ヶ月出ない地域がある」

話は、日本の「当たり前」がいかに当たり前じゃないか、に流れた。

南アフリカには、3ヶ月も水が出ない地域がある。道路に穴があいても、直すのに半年から1年。

日本なら、蛇口をひねれば水が出る。道路に穴があけば、コーン100個と警備員3人が即日で湧く。先生はそれを、皮肉でも卑下でもなく、ただの事実として言った。当たり前って、当たり前じゃないんだな。

体感の「37%」と、統計の「32.7%」

その流れで、先生がぽろっと言った。

うちの失業率、37%くらいかな。

俺はあとで調べた。公式の失業率は、2026年第1四半期で32.7%。あれ、先生ちょっと盛った? ——違った。

若者(15〜24歳)だけを見ると、失業率は60.9%。二人に一人どころか、三人に二人が仕事を持っていない。そして職探しそのものを諦めた人まで含める「拡張失業率」は、40%を超える。

先生の言う「37%」は、統計の公式数字じゃなくて、街を歩く人間の体感だった。ニュースは32.7%と書く。でも、そこに住む人の肌感覚は37%。このズレこそ、現地の人から聞く意味だ。

マンデラの5年と、その後の転落

俺は昔『インビクタス』を観たくらいの知識で、こう聞いた。アパルトヘイトと闘って、30年近く投獄されて、大統領になった人——ネルソン・マンデラ。あの映画が南アフリカの全部だと思ってた。

先生は、やんわり釘を刺した。

インビクタスは理想化されすぎ、ドラマ化されすぎ。あれを正確な姿だと思わない方がいい。

マンデラの大統領在任は、1994年から1999年の、たった5年。その後は下り坂だった、と先生は言う。

そして決定的な一言。「ある一家に、国ごと乗っ取られた」。これは比喩じゃなかった。ズマ元大統領の時代、グプタという一族が閣僚人事や国営企業の契約にまで食い込み、巨額を国外へ流した。南アフリカではこれを「ステート・キャプチャー=国家の私物化」と呼ぶ。ズマは2018年に辞任へ追い込まれ、その後、自分の党をつくった。

そして2024年、ANCが初めて負けた

先生は「もう3年、国民統一政府でやってる」と言った。年数は少し盛っていた。正確には約2年。

2024年5月、与党ANCが史上初めて過半数を割った。30年間、絶対的だった政党が、得票40%まで落ちた。ラマポーザ大統領は、対立してきた政党まで巻き込んで連立——国民統一政府(GNU)を組むしかなかった。先生いわく、「一応は機能してる。でも、もう縫い目がほつれかけてる」。

外国人を追い出すと、店が消える

そして、今この国で起きている話。先生によれば、外国人に国を出るよう期限が切られている。アフリカの国々が自国民を呼び戻し始めている、と。

ここで、先生が一番面白いことを言った。

移民を追い出した瞬間、後悔するんだ。なぜなら、小さな店を上手く回してたのは、たいてい彼らだったから。

外国人が成功している。だから地元民が妬む。だから追い出す。追い出すと、買う店がなくなる。これは南アフリカだけの話じゃない。アメリカも、イギリスも、そして日本も、形を変えて同じことをやっている。

結論: 英語を習いに行って、国の解剖図を持って帰ってきた

蚊の記事を読むはずだった。気づいたら、一つの国の30年が、住んでいる人の声で、目の前に開かれていた。

ニュースは数字をくれる。でも「その数字を、住んでる人がどう感じているか」はくれない。32.7%と、37%。この3.7ポイントの差に、人間が住んでいる。

たぶん、合ってる。

裏取り: 体感 vs 事実

先生が言ったことを、統計と一次資料で確かめた。ズレている所が一番面白い。

先生「うちの失業率、37%くらいかな」
体感は正しい。統計の「公式」より上だが、若者だけ見ると先生より深刻
公式失業率は2026年Q1で32.7%。ただし15〜24歳に絞ると60.9%、25〜34歳で40.6%。30%超えが5年以上続く世界最悪水準。先生の「37%」は、職探しを諦めた人も含む拡張失業率(40%超)寄りの、街の体感値。
先生「もう3年、国民統一政府(GNU)でやってる」
ほぼ正しい、年数だけ盛り気味
実際は約2年。2024年5月の総選挙でANCが史上初の過半数割れ(得票40%、400議席中159)。ラマポーザ大統領がDA・IFPなど9党超と連立=GNUを組んだのが2024年6月。
先生「ある一家に国ごと乗っ取られた」
事実。「ステート・キャプチャー(国家の私物化)」として記録に残る
ズマ元大統領(在任2009〜2018)時代、インド系のグプタ一族が閣僚人事や国営企業の契約に影響を及ぼし、巨額を国外に流出させた。ズマは2018年に辞任に追い込まれ、後に自党MK党を結成。

出典